愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました

この辺りで人気のフレンチレストランは、光の注ぐガラス張りの店内が美しかった。
木漏れ日が落ち、ランチタイムは格別綺麗だ。
温度が上がりやすいのだろう、店内は冷房がかなり聞いている。咲花が冷えないか心配したが、しっかりものの彼女は厚いブランケットを持参していた。聞けば、店内が冷えていると気づいた瞬間、トイレで腰に貼るカイロを付けてきたというのだから用意周到だ。

「咲花はいい母親になるな」

大判のブランケットでお腹から脚までガードする咲花にしみじみと言うと、咲花が変な顔をする。たぶん照れているのだ。

「そうかなあ。実際、赤ちゃんが産まれたらパニックになりそうよ。仕事もそうだけど、イレギュラー対応が苦手なほうなの。出産も育児も初めてだから、全部イレギュラー対応でしょう？」
「俺も柔軟な思考とは言い難いからな。でも、今からいろんなことを想定して動いてくれる咲花を見てると、安心するよ」
「そりゃもう、危機対応はばっちりよ。事故に巻き込まれて入院とか、もう絶対嫌だもの」
「それは俺も嫌だな。あの時は、ぞっとしたよ」
「無事退院したから笑って話せるけど、ひやっとする思い出ができちゃったよね」

事故がなければ、両親たちと再び会う機会はずっと先になっていただろう。
結果はよかったかもしれないが、やはり事故なんて恐ろしいことは金輪際ごめんだ。