愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
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土曜日、俺と咲花は待ち合わせて出かけることになっていた。
昼過ぎに六本木の改札前で咲花を待つ。
今日は新居の物件探しをすることになっている。両親から新居を早々に決め、同棲を始めるようにと薦められているのだ。
要はもう逃げられるなよという意味だろう。
両親は俺が至らなかったから美里が失踪したと考えているのだ。不愉快だが、反論しづらい。
俺は本質的な部分で、美里に対してはいたらない婚約者だったのかもしれない。結婚は家と家の結びつきとしか思っていなかったし、社長夫人として安楽な生活を保障してあげることが幸せをもたらすことだと思ってきた。
それが美里の求めていたものは違ったのかもしれない。
悶々と考えていると、改札を抜け咲花がやってきた。
「佑、ごめんねえ。電車遅れちゃった」
薄手のワンピースにジャケットを羽織り、髪をアップスタイルにした咲花は、通り過ぎる人が振り向くほど美人だ。
子どもの頃から、人形のように愛らしい咲花は、俺の自慢の妹だった。
小学校高学年頃、男子にモテ始めた時は、傑に『咲花を変な男から守れ』と厳命したものだった。
校内で寄ってくる小学生男子はまだいい。咲花は中高生や大人からも視線を浴びる美少女だったのだ。
傑はぼんやりして意味がよくわかっていなかったようなので、何度か登下校は俺が付き添った覚えがある。
当時の美少女は、今は結構な美女として俺の前に立っている。
急いで来たのか、首筋が汗ばんでいる。