愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「ねえ、佑」

咲花は不意に俺を呼ぶ。

「ちょっと心配事があるの」

俺はどきりとかたまった。すると咲花が言う。

「佑は家事ってどのくらいできるの?」
「あ、ああ」

何か重要なことでも言われるのかとつい身構えてしまったが、そんなつもりはなかった様子だ。

「洗濯やアイロンかけは自分ですることが多い。食事は、母親に習ったことないな。米を炊くくらいはできるけど」
「ふふ、じゃあ私とあんまり変わらないね」

咲花がグラスに唇をつけて嬉しそうに微笑む。

「クッキーとかマフィンとか中高の頃結構焼いてうちに持ってきてたじゃないか。料理できるんだろう」
「お菓子作りと、毎日の食事作りは違うよ。お菓子は食べたいから作ってただけだし。料理は、実は結構自信がないんだよね」

悪戯っぽく笑う咲花は、俺に期待していたというわけでもなさそうだ。

「だからね。家事、特に料理はふたりで頑張る感じでもいいかな」
「ああ、もちろん」
「私の方が作る回数は多いかもだし、レシピアプリ見ながらやるけど、失敗しても許してね」

その程度の心配なら、全然気にしないでほしい。むしろ、可愛らしい心配事に俺は頬を緩めた。

「咲花の失敗した料理も楽しみだ」
「失敗前提?意地悪~」
「咲花は見た目が完璧だから、そういう隙があると嬉しいよ」
「佑に言われたくない。佑も料理してね。そして失敗して。私、それをまずいまずいって食べるから」
「食べてくれるのは優しいな」

顔を突き合わせて笑い合う。大人になってからはあまりベタベタ一緒にはいなかった。兄妹みたいな間柄でも、お互いに婚約者がいる身だったから。

そうか、これからは昔みたいに咲花と顔を寄せあい、笑い合ってもいいのか。
なんだか、そのことはすごく嬉しいことのように思われた。
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