愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました



引越しには住居だけではなく家財も必要だ。
多くのカップルが同居を前に、わくわくとインテリアを準備するのだろう。俺と咲花は少々事情が違うが、今日はインテリアを見ようと約束していた。

平日水曜日の終業後、咲花の職場の近くで待ち合わせた。近くに家具のショールームがある。そこであらかたのものは揃えてしまうことにしたのだ。

基本は咲花の好みに合わせてやりたいと思っているが、男としてリーダーシップを見せることも必要だろう。なんでもいいよ、を繰り返しやる気がなさそうに見えるのはまずい。
ショールームへの道すがら一応言っておく。

「ソファとベッドは目星を付けておいた。咲花に見てもらって決めるつもりだけれど」

すると、咲花が何気なく答える。

「イタリア製のソファ五百万円とかやめようね」
「なんでだ」
「え、本当にその価格帯のもの買うつもりだったの?」

咲花が口の端をひくつかせた。そこまでではないが、そこそこの品は買うつもりだった。今日赴くショールームも国内外の高級家具を取りそろえたところだ。

「倹約倹約って言いたいわけじゃないけど、買うものはたくさんあるし、あまりひとつひとつにお金をかける必要はないわよ」
「高いかもしれないが、質のいいものは長くもつ。使い心地もいい」

答えてから、咲花の顔をじろりと覗き込む。

「今、俺のこと、『これだからお坊ちゃんは』とか思っただろう」
「思ってません」

顔をそむけ唇を尖らせる咲花。おそらく当たっている。
やっぱり、咲花はお嬢さん育ちの割に庶民派だ。
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