愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「高い家具は子どもが産まれたら、壊されちゃうか、汚されちゃうよ。ソファなんかトランポリンの親戚くらいにしか思ってないと思うけどなあ」

咲花が言い、あ、という顔になる。俺の方で避けている『子どもができたら』というワードに行きつき、狼狽しているようだ。
その焦った表情を見て、咲花に申し訳ない気持ちが湧いてきた。
安心してほしい。急にそんなことにはならない。少なくとも咲花の気持ちが整うまでは。

「ま、まだちょっと早いよね、その想像は」
「ああ、そうだな」

咲花の狼狽がうつらないように冷静に答えると、ショールームは目の前だった。
ショールームは華やかなシャンデリアに照らされどこもかしこもキラキラと輝いた空間だった。目が痛いくらいだ。
アテンドされながら、先日決めた部屋の間取りを思い浮かべてふたりで相談する。あの部屋を寝室にしようとか、チェストはここに置きたい、幅はこのくらいでとか、そんな会話をする。
まだどこかで現実味がないまま、俺は咲花と住む準備を始めている。

このままでいいのだろうかと思いつつ、これ以外に方法もない。
さすがにすべてを決め切るのは大変なので、続きは週末としてショールームを出た。

「あとひと月弱で一緒に住むのね」

夕食を食べようと、近くのイタリアンまで歩く。咲花が言う。

「ちょっと変な感じだね。佑と私でふたり暮らしかぁ」

咲花は子どもの頃から傑と一緒になると思っていたはずだ。傑に対して憎からず思っていたことは間違いないが、そこに恋愛感情はなかったのだろうか。
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