愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「え、えっとむかって左側?足元から見て」

勢いで答えると佑が深く頷いた。

「了解。俺はむかって右側で休むよ」

そう言って佑は先に寝室へ消えた。
今、このタイミングで追いかけようか。私も、と横に転がってみようか。
ふたりで話とかしながら……手くらいは繋げるかも……。

駄目だ。考えれば考えるほどわけがわからなくなってきた。
私は寝室に追いかけるのを断念し、ソファに座って丹念に化粧水と乳液を肌に塗り込んだ。
そうやって多少時間をつぶして寝室に入ると、すうすうと静かな寝息が聞こえる。覗き込めば、常夜灯の灯りに照らされた佑の寝顔。
ああ、子どもの頃見た以来だ。寝ていても格好いい。

胸を苦しくさせつつ、やはり何事も起こらなかったことに少々落胆しつつ、私は掛布団をめくった。
なるべく端に寝転がる。ベッドは広く、私と佑の間には充分な隙間があった。
よかったような悪かったような。
悶々と考えているうちに、私も疲れていたらしい。気づけば眠りに落ちていた。

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