愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「子どもの頃、おまえが泊まりに来たとき、寝るときに足が冷えて眠れないって泣きだしたの覚えてるか?」
「ええ?そんなことありましったっけねえ」

とぼけてみるけれど、覚えていた。小学一年生くらいのことだ。
両親がパーティーだ会合だと出かけるたびに、私は榛名家に泊まりに行った。榛名家はお手伝いさんがたまに来ていたので、親たちが忙しいときは保育士代わりに呼んでいたのだ。

「あった。咲花が泣くから、俺は布団の中でずっと足同士をくっつけてたんだ。傑はおまえが泣いていても気にせずがーがー寝てしまうし」
「あら~、その節はお世話になりました」

あの時私は足が冷えてと言い訳をしたけれど、本当は寂しくて泣いてしまったのだ。大人びた子どもだった私でも、自宅じゃない場所で両親不在の中眠るのは不安になる。密かに涙していたのに気づかれ、咄嗟にごまかしたのだろう。

「だから、何が言いたいかというと」

佑は困ったように頭をがしがしと掻き、それから私を見た。

「同じベッドで構わないと言ったのは咲花だろう?あまり遠慮しないでくれ」
「もうちょっと近づいて寝ようってこと?」

聞き返してみて、猛烈に恥ずかしくなってきた。言葉にすべきじゃなかった。
佑も少々照れているようで、視線をそらしてから頷く。

「咲花さえよければ、だけど」

私は慌てて頷く。

「なんか逆に気を遣わせちゃったね。ありがとう」

ごまかすように言うと、佑ががしっと私の腕を掴んだ。

「今日は絶対、傍で寝るぞ」

そ、そんなはっきり口にしなくても。
< 54 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop