愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
佑の宣言のせいで、妙な空気になってしまった。夕食もその後も、普段通り振舞おうとするのに、胸がドキドキ足元からそわそわ。
別にムキにならなくてもいいじゃない。お布団を別に用意したくらいで。
きっと、私に窮屈な想いをさせまいと考えてくれているのだ。でも、近づいて眠るってだけで私はパニック状態だ。

「咲花」

いよいよ日付が変わる頃合いに佑が私を呼んだ。びくつかないように笑顔で振り向く私。

「なあに」
「そろそろ寝よう。来い」

佑の真剣な顔。カッコいい……じゃなくて、男らしく誘ってくれなくてもいいのよ。
断るのも変なので、リビングの電気を消し、後をついていく。

「ほら、こっちだ」

佑は先にベッドに入り、掛布団をめくって、とんとんとシーツを叩く。ここに来いって意味だろう。

「わかったってば。心配性だなあ」

得意の『意識してないフリ』を駆使して、茶化して見せる私だけど、心臓が口から飛び出そうなほど高鳴ってる。
ベッドの端に腰を下ろし、つま先をシーツに滑らせ、布団の中に入れる。まだ佑とは人ひとり半ほどの距離がある。

「端にいるなよ」
「堂々と真ん中を使わせてもらうわ」

言葉と裏腹に佑に近づけないまま横になる。
すると、佑ががばっと私に覆いかぶさってきた。
な、何事!?
驚く私の右肩を掴み、自分の方に引き寄せる。

「た、すく!」

驚いて声をあげた私の間近に佑の胸がある。近い。佑の香りがする。

「ほら、ここだ。ここ。広々使って眠れ!」

どうやら佑は純粋に私をすみっこから移動させたかっただけみたい。だけど、佑は気づいていない。私たちがめちゃくちゃ接近している状況に。
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