愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「佑にはもう別な婚約者がおります。結婚式の準備も始まっているんですよ」
「こちらとしてもそれは承服いたしかねます。美里と佑くんは長く婚約関係にあったわけで、正式な婚約解消を待たずに別な女性と結婚だなんて」
「佑には陸斗の後継者としての立場があります。美里さんが失踪されなければ、こんなことには」

竜造おじさまの苛立ったような声。美里さん、やっぱり消えてしまった婚約者のことだ。今、来ている八木という男性は、そのお父さま?

「佑くん!美里について何かわからないですか?」

八木という男性の声。切羽詰まったような口調だ。

「きみと何かあったから、美里は消えてしまったんじゃないか?どうか、何かひとつでも心当たりがあれば教えてほしい!」

婚約は家同士のもので、きっとこの男性は佑と美里さんの結婚をやめたくない。だけど、それ以上に消えてしまった娘さんのことを案じているのだ。親として心配でしょうがないのだろう。それが言葉から伝わってくる。
佑と美里さんに何があったか私にはわからない。だけど、佑に背負わせないでほしい。婚約者に失踪されて、佑は確かに傷ついたはずだから。

「すみません、俺には心当たりがないです」

佑が答える。

「ですが、美里さんの行方については人を頼んで捜索してもらっています。必ず見つけ出したいと思っています」

その言葉に胸がずんと重くなった。

佑は美里さんを探しているの?
知らなかった。消えてしまった婚約者を、まだ佑は探していたの?
もしかして、待っているの?
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