愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「俺も美里さんとは話したいことがありますから」

私はそろそろと後退った。そのまま、応接室に戻る。
心臓が痛い。手足が冷たい。

佑はまだ元婚約者を探している。会いたいと思っている。
私と結婚の準備を進めながら。
それはどうして?
きっとまた責任感だと思う。仮にも婚約者だった人。お父さんも心配しているし、家に帰してあげたい。何か事件に巻き込まれていたらと心配しているんだと思う。
だけど、本当にそれだけ?

数分後、応接のドアがノックされ、佑が現れた。

「ごめんな、咲花。遅くなった」

私は青い顔をしていたかもしれない。一生懸命笑顔を作ろうとするけれど、うまくいかない。
私の表情で、佑は察したようだ。

「隣の話、聞こえていたか」

そろりと頷く。佑は私の前に立ち、視線を合わせる。

「咲花を呼んだあと、急に尋ねてこられてな。何度もお越しになるんだが、俺も有益な情報を持っていない。美里……元婚約者については」
「でも、探してるんでしょう?」

声が震えてしまう。

「会いたいと、思ってるんでしょう?」
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