愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
リビングのソファで待っているうち、日付が変わる。ようやく玄関に鍵が差し込まれる音が聞こえた。
「咲花!」
俺は立ち上がり、急ぎ足で玄関に向かう。ブーツを脱いでいる咲花に遭遇した。
「ただいま、遅くなっちゃってごめんなさい。寝ていてくれたらよかったのに」

にっこりと作った笑顔になる咲花。
何年おまえの顔を見ていると思っているんだ。こんなぎくしゃくした笑顔はやめてくれ。

「咲花、話がある」
「明日にしようよ」
「今だ」

勢い、俺は玄関のドアに咲花を追い詰める格好になっていた。腕をドアにつき、咲花を逃がすまいと見つめる。
咲花は赤い顔で俺を見上げ、次に眉間に皺を寄せて怒った。

「壁ドンしても駄目!」

はっとした。確かに俺の格好は、少女漫画で一世を風靡した壁ドンの状態だ。
俺は何をやっているんだ。

慌てて解放すると、今度こそブーツを脱いだ咲花は俺の横を通り過ぎてリビングに行ってしまう。それから、俺が話しかける隙もないくらい急いで風呂の仕度をして、バスルームに籠ってしまった。
情けない。気持ちばかり焦って、きちんと話すことができなかった。今日は諦め、俺は先にベッドに入る。

翌朝、起きると咲花はすでに出かける仕度を整えていた。あまりにも早い。

「もう出るのか?」

リビングで声をかけると、咲花は俺を見ずにうんと頷いた。
俺を避けたいのだろうが、こんな生活を続けさせるわけにはいかない。

「昨日のことだが、きちんと話をしたい」
「いいよ。婚約者さんが見つかるまで、繋ぎでここにはいるから。竜造おじさまたちの手前、その方がいいでしょ」

背中を向けているので、咲花の顔は見えないが、俺もさすがに苛立った。
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