愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「どうして決めつけるんだ。俺が結婚するのは咲花だぞ」

振り向いた咲花は悔しそうな顔をしていた。

「その人のことが好きなら応援する」
「は?」
「佑も傑も、好きな人と幸せになってほしいの。兄弟みたいに思ってるから」

咲花は言うだけ言ってリビングから出て行ってしまった。玄関の開閉音が室内に響く。
俺はまだスウェットのまま、ダイニングチェアにどさっと座った。

「あいつ、結局誤解したままだ」

美里に恋愛感情はなかった。責任しかない。だけど、咲花は未練があると思っているのだろう。

「本当にこういうところは意固地だ。昔から変わっていない」

兄妹みたいに思ってる。幸せになってほしい。
俺だってそうだ。咲花が幸せになるなら、それが一番いい。
だけど、俺はそれを他人には任せず俺の手でと決めたのだ。咲花を幸せにするのは俺だと。
しかし、咲花にとって、俺はまだそこまでの存在ではないらしい。
一緒に暮らし、結婚式の準備をして、仲良く暮らしていると思っていた。距離が少しずつ縮まっているのではと思っていた。

まだおまえにとって、俺は兄でしかないのか。
元の婚約者に簡単に譲ってしまえる程度の存在なのか。
やるせないような情けないような感覚で、胸が苦しい。こんなどうしようもない気持ちになったのは初めてだった。


結局遅くまで仕事をすることで、もやもやを後回しにすることしかできなかった。
咲花は本当に俺と結婚していいのだろうか。何度も繰り返した煩悶が浮かぶ。俺は婚約者に逃げられるような男だ。そして、今も咲花を傷つけている。
俺が咲花を笑顔にさせられないなら、婚姻関係は結ぶべきじゃない。
誓った傍から、気持ちが揺らぐ。
< 68 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop