愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
今日は俺の方が帰宅が遅い。日付が変わる少し前に帰宅すると、ダイニングテーブルにつっぷして咲花が寝ていた。
テーブルには夕飯の食器。キッチンの鍋からはいい匂いがする。
昨日もそうだが、咲花は険悪になろうが夕食を作ってくれるらしい。律儀だ。咲花らしい。そんなところを好ましいと思う。

「咲花」

俺は横の椅子に座り、乱暴に咲花の髪を掻きまぜた。遠慮するのはやめよう。きちんと話そう。
咲花に相応しい男かはわからないけれど、俺は咲花を守りたいと思っている。妻として家族として。そのために、まずは咲花の誤解は解いておきたい。

「んん~」

俺が頭を撫でたせいか、迷惑そうにうめいて咲花が起きた。

「……佑」

顔をあげ、驚いたように目を見開いた。もともと大きなぱっちりした目がさらに大きい。いきなり隣にいるとは思わなかったのだろう。俺は動じることなく、いつものテンションで言う。

「ただいま」
「おかえり……。夕食食べる?」
「食べる」

本当は軽く食べてきてしまったけれど、咲花が作ってくれたものだから食べたい。

「用意する」
「その前に聞いてくれ」

俺は立ち上がろうとした咲花の手首を掴み押し留める。咲花は唇をきゅっと噛みしめ、それでも、椅子に座り直してくれた。

「なに?」
「俺は元婚約者に気持ちはない。親同士の決めたことだ。もともと恋愛感情では見ていない。咲花が傑にそうであったように」

傑のたとえならわかりやすいだろうか。咲花は静かに頷く。
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