愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
幼い私にとって、傑は子どもっぽく弟にしか見えなかった。だけど、佑は違った。佑は兄であり、憧れだった。しかし、同時に佑と結婚はできないのだということも早くからわかっていた。

『僕は咲花と結婚するだろ。兄ちゃんは遠くに住んでる婚約者と結婚するんだよ』

傑が訳知り顔で教えてくれたのは小学校低学年の頃で、私は自然と納得していた。私と傑が対なら、佑には他所に対になる人がいるのだろうと。

そして、そのことは年を追うごとに胸を重苦しくした。小学校中学年にあがる頃には、私は佑への感情が初恋だと理解していた。気づいた瞬間には失恋している恋だった。私にも佑にも相手は別にいる。

『どうした?咲花』

私がしょんぼりしていれば、顔を覗き込み気遣ってくれる優しい佑。高学年になった佑はすらりと背丈が伸び、目が合えばどきりとするほど格好いい男子になっていた。
いつだって、私は妹として特別扱いで、そのことが嬉しいのと同時に、むずむずするような疼きにも変わっていた。佑だからこそ、この気持ちは口にできない。

『なんでもないよ』

子どもながらに、佑との関係を大事にしたいと思っていた。兄妹としてなら、ずっと一緒に入られるのだから。

長くその状態は続いた。
中学生の頃には私はこの恋を封印することを覚えた。
傑もそうしていたので、私も彼氏を作った。私と傑はそういった意味ではさばけていて、早い段階からお互いの関係の『仕方なさ』を理解した上で付き合ってきたように思う。
彼氏とはキス程度は済ませたけれど、結局すぐに別れてしまった。好きじゃない人と付き合っても虚しいだけなのは、そこで理解した。
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