愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「可愛かったねえ、カノンちゃん」
「そうだな」

砂浜に残された俺たちは海を眺める。清々しいような心地がする。

「美里さん、幸せそうでよかったね」
「ああ」

咲花が俺の前に進み出て振り向き、ばっと両手を取った。

「ね?佑のせいじゃなかったでしょう?」

どうやら、俺には美里の失踪に責任がなかったと証明したいらしい。厳密に言えば、多少は俺の責任はある。俺と美里が恋愛で結びついていれば、親たちは納得したのだから。しかし、人の心は縛れない。

「咲花が傑にそうしてくれたみたいに、俺から早く婚約を解消してやるべきだった」

咲花は俺の両手を包んで笑顔になった。

「言われなければわかんないじゃない。他に好きな人がいますなんて。ともかく、佑のせいじゃありませーん」

咲花の気遣いが嬉しい。いつだって味方でいてくれようとする彼女は、俺にはできた婚約者だ。

「なあ、“大事な人”」

ふざけて呼びかけると、咲花が頬をピンク色にしてぶうと膨れた。

「リップサービス要りません」
「いや、本心だよ」

笑うと、咲花の顔が余計に赤くなる。少しはドキドキしてくれただろうか。

俺は咲花が好きなのかもしれない。
咲花のことを妹としてじゃなく、ひとりの女性として好きなのかもしれない。
叶うなら、咲花の兄というポジションから少しだけはみ出したい。

「佑が変なことばっか言うからお腹空いてきた」
「俺のせいじゃないだろう。ランチが足りなかったと素直に言えよ」
「チーズケーキ食べて帰ろうね」
「ああ、了解。店の住所、教えてくれ」

要望のチーズケーキはかなりボリューミーだったけれど、咲花はぺろっと食べきってしまった。

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