愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「ところで兄貴、咲花とは仲良くやっているんだろう?」

しばらく仕事の話などをメインにしていたら、またしても話が俺と咲花の方に戻ってきた。
俺は頷き、ビールを口に運ぶ。

「咲花は賢く気立てがいいからな。急な婚約にも、笑顔で応じてくれているよ。俺たちのせいで人生を決めさせてしまった分、咲花を幸せにしてやりたいと思う」

そう答えながら、俺の心情は少し変わっていることにも気づいていた。咲花を幸せにしたいというのは責任感や義務感ではない。俺が咲花に笑っていてほしいからだ。そしてあわよくば、少しだけ咲花に好かれたい。兄としてではなく、男として。

「咲花も念願の婚約だし、兄貴もまんざらじゃないだろう?咲花のことは子どもの頃から過保護に守ってきたものな」
「咲花には念願じゃないだろう。俺は……まあ、相手が咲花でよかったとは思うが」

傑がしばし黙った。
それからいきなり表情を変えた。驚いた、というような顔だ。

「兄貴、もしかしてなんだけど」
「なんだ?」
「俺と咲花の婚約破棄の理由、知らない?」
「おまえに里乃子さんという大事な人ができたから咲花が身を引いたんだろう。咲花本人は傑に恋愛感情はないから、何の問題もないと言っていたが」

傑が頭を押さえ、あー、と呻いた。

「やっぱり、咲花、ちゃんと言っていないのか」
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