愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「なんのことだ?」
「言うべきかな、これは。いや、兄貴たちが婚約して三ヶ月近く経ってるしな。俺は咲花に言うように薦めたし」

傑しか知らないことがあるのかと焦って聞けば、弟は俺の顔を真っ直ぐに見た。とっておきの話というように、眉間にしわをよせて、険しい顔を作る。

「俺たちが婚約をやめた本当の理由。俺と咲花はお互い別に好きな人がいたんだ。俺だけじゃない。咲花にも」
「……え」

俺は言葉を失った。咲花に好きな男がいた?

「だから、お互いの恋を応援するために別れたんだよ。まあ、咲花は自分の気持ちは胸に秘めて叶える気はなかったみたいだけど。子どもの頃からそうしてきたしな。長く長く片想いしてたんだ」

傑の説明が脳の表面を上滑りしていく。咲花に好きな男がいた。それは俺も知っている男だろうか。今でもそいつが好きなのだろうか。
俺は咲花になんて残酷なことをしてしまったのだろう。咲花は結局恋を叶えられず、俺なんかと結婚することになってしまった。俺が咲花の気持ちに気づいて、婚約を進めなければこんなことには。

「咲花から、本当何も聞いてないんだな」
「ああ……」

傑は俺の様子を困惑げに見つめている。
俺は衝撃で言葉すらうまく出てこない。そして、動けなくなっている自分自身にも驚いた。これほどショックを受けるとは思わなかった。俺は……咲花を……。

「誤解させる気ないから言うけど、咲花の好きな男って兄貴だよ」

俺は顔を上げた。
今なんと言った?
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