愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
『いいよ』
『おまえ……即答』

傑はかなり驚いた顔をしていた。それからぽつりぽつりと話してくれた。職場の後輩の女の子を、指導係をしているうちに好きになってしまったこと。彼女に好かれている自信はないけれど、このままの気持ちで私と結婚はできないと思ったこと。

『咲花にも、好きなヤツがいるんだろう。ずっと……』

傑ははっきり言わなかったけれど、私の想い人が誰か気づいている様子だった。そして、私たちが婚約していながらも、男女の仲にならなかったのは、傑が私の気持ちに気づいて遠慮していたからだったのだ。
幼馴染で弟にも等しい傑の気持ちがありがたく、それと同時に俄然応援したい気持ちが湧いてきた。

『傑、傑は恋を叶えて。その子に告白をするの。結婚の約束をしてね。そして、私を振って』

私は傑を見つめ、大真面目に頼んだ。

『私も好きな人に振り向いてもらえるように努力する。私も傑も別に結婚を約束した恋人ができてしまえば、親たちも無碍にできないわ』
『咲花はそれでいいのか』

傑は遠慮がちに尋ねた。私の想い人が誰か気づいているなら、この恋が叶わないのもわかっているのだろう。だけど、私は笑顔で傑に言った。

『絶対よ。私たち、円満に婚約を破棄しましょう』

あの時は、純粋に傑のために婚約破棄を画策した。

……それが一年後、こんな実の結び方をするなんて。
私は、想い人・榛名佑と婚約することになってしまった。

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