愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
もう、本当に困る。
最近佑は無意識に距離が近い。急にハグをしたり、顔を近づけてきたり、こんなふうに手を繋いでみたりする。夫婦になるわけだし、全然OKだとは思う。佑はきっと家族の範囲で近づいているだけだろうし。

だけど、佑のことが好きな私からしたら、いちいち胸を押さえてうずくまりたくなるドキドキが目白押しなのだ。
佑の無邪気な行動に、胸の高鳴りを抑えては平静を装う涙ぐましい日々の努力。はあ、心臓が持たないわ。

佑の元婚約者の美里さんに偶然会ったのは二週間前のこと。佑は私のことを“大事な人”と言ってくれた。すごく嬉しかった。
美里さんを安心させるための言葉かもしれないけれど、きっと何割かは本音が入っているはず。それで充分。
佑の中で、私はちょっとだけ特別に大事な存在。そう、信じたい。

「咲花、夕食、本当に鍋でいいか?」

次のCMに入ったところで、佑が私に手を重ねたまま尋ねた。

「うん、だって佑が作ってくれるんでしょう?」
「ああ、でも時間はあるし、もう少し手の込んだものでもいいよ。買い出しはしたから、家にあるもので作れるようにする」
「私はお鍋がいいなあ。ヘルシーだしね。ウエディングドレス、サイズ計ってオーダーしちゃったから、これ以上太れないもの」

先日、ウエディングドレスの採寸とオーダーをしてきたのだ。どうせ一回しか着ないし、レンタルでもいいんだけれど、両家の親が許してくれなかった。社をあげてのイベントだものね。フルオーダーではなくセミオーダーにはしたけれど。
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