そしてまた、桜はさきほこる
「届けに来てくれたの!?ありがとう!!」


とっさに出たその言葉は、うわずっていなかっただろうか。


笑顔は引きつっていなかっただろうか。


思わず顔を近づけすぎてしまい、ドキドキが止まらない。


「あ、あの、ネクタイ届けられてよかったです!」


そう言い残して、彼女は走り去ってしまう。


生徒会長として、廊下は走っちゃダメだよと声をかけようとも思ったが、声が出ない。嬉しさと緊張が入り混じった複雑な感情が、唇を硬直させていた。


行ってしまう。


遠ざかってしまう。


俺は、何もすることができず、ただ消えていきそうな彼女の背中を見ていた。


すると、突然彼女は足を止めた。


そして、そのまま振り返り、廊下中に響き渡る声で叫んだ。


「私!高田さきっていいますー!!」


高田・・・さき・・・か。


俺はそう呟きながら、手渡されたネクタイを強く結び、再び教室へと戻る。


前言撤回。今日は、俺の人生史上一番ついている日に違いない。
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