そしてまた、桜はさきほこる
「さきちゃん、待って!」


初めてその名を口にした。


初めてその名を呼べた。


だらしなく息は上がって、のどは渇ききっているけど、確かに口から出たその言葉に、さきちゃんは振り返った。


「もしかして、俺に用がある?」


「は、はい」


なんでそんな言い方をしてしまったのだろう。


まだ俺は、自分の気持ちを伝えることに迷っているのか。


本当に最低な男だ。最低でとてつもなくダサい。


さきちゃんが恥ずかしそうに視線を上げ下げしている。


その姿が、とてもかわいい。胸がどきどきと高鳴る。


どんどん速くなる胸の鼓動が、さきちゃんに聞こえてしまいそうだ。


そして、さきちゃんは意を決したように視線を一点に定め、口を開いた。
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