【短編】M e m o r y
周りの時が止まった。
記憶になかった。
覚えてなかった。
忘れてた。
気づいて…なかった。
なんで……今更?
私の事なんか
忘れたんじゃなかったの?
《……あたり》
優馬の声が、妙に優しく聞こえた。
「……っひ……ふぇ…」
涙が溢れてきた。
もう知らない。
後の処理は優馬、あんたがやってよね。
私の涙は枯れないんだから。
《美?…え!? な、泣いてるの?》
泣いてるよ。
優馬のせいで、止まらないよ。
「っく……うぇ……ぐすっ」
《うえー…どうしよ。美、とりあえず落ち着いて、ね?》
優しい優しい優馬の声に。
また安心しちゃったのかな。
再度、瞳から涙が零れ落ちたんだ。
私の中で、世界は、優馬中心にぐるぐる回ってるみたい。
だって今も、優馬がすぐ近くに
いるみたいな気がして。
そんな事、あるわけ無いのにね?
夢を見てしまうのはきっと、
優馬に会いたいからだね。
好きじゃない。
そう言ったはずなのに。
そう思ったはずなのに。
言葉とは裏腹に心は素直で。
私、優馬の事…まだ好きなんだ。
だから忘れないんだ。
忘れられないんだ。
記憶が鮮明なのは初恋だからじゃない。
好きだから。
好きだから……はっきり覚えてるんだ。
。