羽を失くした天使 ~祐一の場合
夏休みが 終わっても
千佳は 自分の部屋に 帰らなかった。
時々 アパートに 必要な物を 取りに行き
ずっと 俺の部屋で 生活していた。
俺は 暗い顔のまま 学校と家を 往復する毎日で。
新しい バイトを 探す気にもなれず 無気力なまま。
普通の生活が 戻っても 心の傷は 消せない。
千佳とは 一度も 出かけもせず。
俺から 話しかけることも なく。
夜になると すり寄ってくる 千佳を抱いて。
麻里絵を 思い出して 胸が詰まる夜は
泥酔するまで お酒を飲んで。
そんな 生活は 半年以上 続いた。
「祐一君。もう 別れよう。今まで ありがとう。」
千佳が 俺の部屋を 出て行ったのは
春休みになって すぐだった。
俺と 麻里絵を 不幸にして 気がすんだのか。
これ以上 俺といても 無駄だと思ったのか。
俺は 千佳の物が なくなった部屋を
いつまでも 窓を開けて 換気した。
悪夢のような 時間を 掃き出すように。
濁った空気と 千佳の気配を 消すように。
深夜になっても 俺は 窓を 閉められなかった。