羽を失くした天使 ~祐一の場合
「ねぇ。話し 聞かせてもらったお礼に お昼 ご馳走するわ。何がいい?」
社長は キッチンから 何枚ものメニューを 持ってきた。
「えっ。いいですよ。そんな。申し訳ないです。」
「遠慮しないで。どうせ 私も 食べるんだから。」
社長に 促されて 俺は かつ丼を お願いする。
「離婚している私が こんなこと言っても 説得力ないけど。本当に 許し合える人って 必ず いると思うのよねぇ。」
社長は 注文の電話をした後で ポツリと言った。
「社長。案外 ロマンチックですね。」
俺は クスクス笑ってしまう。
「私 別れた夫のこと すごく 好きだったの。ううん。今でも まだ好きだと思う。」
「離婚の原因とか 聞いてもいいですか?」
「月並みだけど。浮気されたの。職場の 若い女の子に。夫は ただの浮気だって。別れる気はないって 言い張ったんだけど。相手の女性が 少し 厄介な子で。鬱みたいに なっちゃって。」
「厄介な女性って どこにも いるんですねぁ。」
俺は 千佳を思い出して 言う。
「さっき 進藤君から 千佳ちゃんの話し聞いて。思い出しちゃった。その子のこと。」
社長の顔が 女性の顔になる。
「厄介な女性って 隙を見つけるんですよね。」
「まさにそれ。私達も 結婚して 子供も生まれて。安定してたから。隙だらけだったの。」
「ご主人は その女性と 再婚したんですか?」
「ううん。その子の望みは 私と離婚させることだったのよね。夫が 1人になったら 飽きちゃったみたいよ。」
「それじゃ ご主人は 離婚し損じゃないですか。」
俺の言葉に 社長は ケラケラ笑う。
「まぁ。いい薬に なったんじゃない。」
と社長は 優しい口調で言った。