電話のあなたは存じておりません!
3.私を知るあなた
翌日の同時刻、権兵衛さんは言葉通り、電話を掛けて来なかった。
なので翌々日の五月五日、私から電話を掛けた。
「佐藤さんと間違えられた芹澤ですが」
『……あ、はい。芹澤さん、今晩は?』
今晩は、と挨拶もそこそこに私は相手に不満をぶつけた。
「あなただけが私を知っていて、私があなたを知らないのは不公平です。そう思いませんか?」
彼にとって、今度は間違いなく私が迷惑電話を掛けているだろう。
『……そうですよね、すみません。あの、僕はクルスと言います』
ーークルス…。
知らない名前だ。同級生にそんな名前の男子は居なかった。
本当に知り合い? って言うか外国人? それともやっぱりストーカー……?
『今日もDead By Sunrise聴いてるんですね? 芹澤さん、好きだって言ってましたよね?』
ドキリと心臓が打った。
いや、むしろギクっとしたという表現が近いと思う。
このグループの事を話しているのは大概気の知れた仲ばかりで、そもそも男の人に話した記憶が無い。
ますます分からない。思わず「Who are you?」と呟いていた。
『クルスですよ、芹澤さん』
彼は電話の向こうで笑みを滲ませていた。
ーー何なんだ、これ。
私は不思議な感覚に見舞われた。得体の知れないクルスとかいう男と話しているのに、不思議と切る気になれない。