電話のあなたは存じておりません!
4.不審者か好きになりかけている人か
「なにそれ、凄い怪しいじゃん?」
「そうかな?」
「そうだよ、そんな素性も分からない男からの電話よく取ったね?」
連休明け、失恋の痛手もほぼほぼ完治し、私は出社してすぐに和希の事と権兵衛のクルスさんの話を同僚の由佳と沙奈江に話した。
私語で盛り上がるのはお客様がいらしていない時のみで、中途中途で口を噤む。
ポン、とエレベーターの機械音が鳴り、私たちは条件反射の如く、笑みを浮かべた。
エレベーターホールから受付前へ颯爽と歩いて来る来客を目で捉えて軽く頭を下げる。
「いらっしゃいませ」
スーツ姿の男性も同様に会釈を返してくれる。三人座る受付の、丁度手前の席で足を止めるので私が応対する事にした。
「あの、田島印刷の宇野と申しますが、営業部の山城さんはいらっしゃいますか?」
「営業部の山城ですね。恐れ入りますが、お約束はいただいておりますでしょうか?」
「はい、十一時に」
「少々お待ち下さい」
すぐさま営業部のフロアに電話を繋ぎ、山城さんを呼び出した。
私の隣りに座った由佳が、カウンターから出て「それではミーティングスペースへどうぞ?」とお客様を案内する。