電話のあなたは存じておりません!
6.告白

 就業時間を終え、ロッカールームで着替えてからクルスさんに電話を掛けた。

 あの後、由佳と沙奈江から質問攻めにあったけれど、シンプルに「間違い電話の権兵衛さん」と告げると、二人は呆気に取られ言葉を失くしていた。

 会社のエントランスでクルスさんと待ち合わせをして、黒光りする高級車に乗せて貰った。勿論運転手付きだ。

「クルスさんってお金持ちだったんですね?」

 隣り同士で座りながら、副社長ではない"彼"に向けた言葉を呟くと、彼は困ったように微笑み、「父の偉業だよ」と答えた。

「もう今さらですが。フルネームを教えて貰えますか?」

 クルスさんは眉を下げてクスッと笑い、頷いた。

「来栖 或叶、二十八歳。来月の二十日(はつか)で二十九になるよ?」

 電話番号の下四桁、0620は彼の誕生日だった訳か。

「分かりました。じゃあ携帯の電話帳も変更しておきますね? 今のところ【権兵衛のクルスさん】なので」

「ああ」

 スマホを弄る私を横目に、来栖さんが楽しそうに笑った。

 行先のお店は彼に任せた。「何が食べたい?」とだけ聞かれたので、少し考えてから「高級そうなお店じゃ無ければどこでも」と答えた。

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