電話のあなたは存じておりません!
 どうしてここで元カレの名前が?

 私は目を見張ったまま冷静に考えた。

 元々和希と来栖さんが繋がっていて、それがプライベートな事でも話す間柄だとしたら。

 和希が結婚する事、それに伴って二股を掛けていた私と別れなければいけない事を、目の前の彼に話していたとしてもおかしくはない。

「和希から私の事を聞いたんですか?」

「ああ。結婚の報告を受けた時にね。もう一人の彼女と別れなければいけないって、最低な愚痴をこぼしてたよ」

「そう、ですか。じゃあ私の番号は和希から?」

「そうだけど。直接ヤツから聞いた訳じゃない。酔い潰れた和希のスマホを見て、つい魔がさした。
 俺は芹澤さんの事を覚えていたし、真島物産の受付に座っているのも知っていたからね?」

 好意的な態度を崩さない彼を見て、困って首を傾げた。

「だからと言って……、分からないです」

「何が?」

「あなたみたいな人が私に構うのは……何か裏があるのかなって。勘ぐってしまいます」

 そう言った所で、「失礼致します」と個室のカーテンが引かれ、ウェイターさんが頼んだ料理を運んでくれる。

< 31 / 36 >

この作品をシェア

pagetop