電話のあなたは存じておりません!
 社員教育がしっかりと為されているのか、丁寧にお辞儀をして立ち去った。

「裏は無い、と言いたい所だけど。芹澤さんはそういうの、昔から気にするよね?」

「そういうの?」

 どの部分を差して居るのか分からず、おうむ返しに質問する。

 湯気が立ちのぼる和風パスタの香りに食欲をそそられるが、私はカトラリーに手を伸ばさず彼を真剣に見つめた。

「自分と相手との能力の差、っていうのかな。純粋で素直なんだけど、言い寄られると逃げ腰になる。だからキミはキミ自身が好意を持った相手にしか近付かないし、外見や肩書きも重要視しない」

 ズバリと言い当てられて、私は口を噤んだ。

 私はいつだって私が相手に見合う存在かを考えてしまう。だから整った容姿やピカピカに洗練された経歴、肩書きを持った相手は自然と敬遠してきた。

 高二の頃にあったように、ネットにある事ない事を書き込まれるのを恐れたからだ。ちゃんと自分の身分ぐらい弁えています、と暗に示したかった。

「そういう事情をふまえて、俺は電話を掛けたんだよ。芹澤さんとお近付きになりたくて」

「それは……。私に下心を持っていたという事ですか?」

「そうだね」
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