電話のあなたは存じておりません!
「やっぱり。分からないです」

 ーーあなたほどの人がどうして……。

 単純に恥ずかしくなって、私は頬を熱くした。

「とりあえず、食べようか?」

 彼にカトラリー入れを差し出され、フォークとスプーンを手に取った。

「ありがとうございます」と会釈してから、「いただきます」と言って手を合わせた。

 スプーンの上でくるくると麺を巻き付け、ひと口ふた口と運び、頬を緩ませる。

「美味しい」

「そう、良かった……」

 来栖さんも同様にパスタを食べ、うん、と笑みを浮かべている。

「話の続きだけど。食べながら聞いてくれる?」

 来栖さんは手元にあるナプキンで口を拭った。私はパスタを咀嚼しながら無言で頷いた。

「芹澤さんが思ってる以上に、男って単純だよ?

 綺麗で可愛い女性には当然ながら好意を持つし、不意に頼られると張り切ってしまう。弱いところを見せられると守りたくなる。

 俺はね、高二の頃の芹澤さんに背を押されたんだ。

 親に良しとされなかった教師を目指して、実習生の時にキミから意欲を貰った。

 大学を卒業してから五年ほど中学教師にも就けた。でも去年退職して、親の会社を継ぐ事になった」

「どうして……。教師を辞めたんですか?」

 口の中のパスタを飲み込み、率直に尋ねた。

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