続・電話のあなたは存じておりません!
「は、はい、まぁ……」

 動揺から若干声が震える。

 とりあえず、早く着いてくれと祈りながら、私は順に点灯していく階数表示を見つめた。

 その時。私の視界にスッと横切る彼の手を見て、そのまま壁に付くのを目で追ってしまう。

 ーーえ……?

 私を挟む様にして彼は両手を壁に付け、見上げた時には唇を塞がれていた。

「……んぅッ」

 だめ、エレベーターには監視カメラが……!

 そう思って拒みたかったのだが、好きな人とのキスを拒むのは容易な事じゃない。

「芹澤さん」

「……は、い」

 彼の声が耳元で囁き、高鳴る鼓動に追い討ちをかけた。

「今日会う約束してたけど。キャンセルしても良いかな?」

「え、どうして、」

 顔を上げると案の定、至近距離で見つめられ、また体温が上昇する。

「ごめんね、どうしても外せない仕事が入ったから」

 ーーあ……。

「分かり、ました……」

 エレベーターが目的階へと到着し、ポン、と音が鳴る。

「第一会議室は分かるからここで大丈夫だよ。ありがとね?」

 或叶さんは颯爽と歩き出し、後ろ手を挙げて去って行く。

 相変わらずスーツが素敵な彼の後ろ姿を見守り、私はズキズキと心臓の奥が疼くのを感じていた。



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