続・電話のあなたは存じておりません!
 バスタブにお湯を張り、私は顎先まで湯船に浸かった。柔らかなお湯で全身を温めながら、彼の名前を呟く。

或叶(あると)さん……」

 或叶、と。本当はそう呼びたい。

 彼からも、いい加減名前で呼ばれたい。

『朱音ちゃん』、あの人ならきっとそう呼ぶだろう。ちゃん付けじゃなくて、朱音って。呼び捨てにされたい。

 或叶さんともっともっと、親密になりたい、いつしかそんな欲求が私の内側からじわじわと滲み出るようになっていた。

 *

「え……? 朱音たちまだヤッてないの?」

 就業時間を終えて、ロッカールームで着替えている時。由佳と沙奈江に何気なく悩みを漏らしてしまった。

「或叶様と付き合ってもうどのぐらいよ? 結構経つでしょ?」

「そうそう、デートも頻繁にしてるみたいだし」

 私は、う、と言い淀む。そういう今日も或叶さんから食事に誘われている。

 彼と会うのは大体夜で、食事をして、ドライブをしながら会話して、自宅まで送ってもらう。

 恋人らしい振る舞いと言えば、手を繋ぐ事とハグされる事、そしてキスをする事だ。

「もうそろそろ一ヶ月でしょ? 朱音からそれとなく誘ってみたら?」
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