続・電話のあなたは存じておりません!
 そう言ってフロントガラスの先を見つめ、苦い顔をする。

「それだけ和希の事で怒ってたんだと思う。だから仕方ないよ」

 私はやんわりと笑ったあと、彼に向き直り頭を下げた。

「来栖さん、本当にありがとうございました。私の事で……迷惑をかけてしまってごめんなさい」

 彼は暫く無言になったあと、ハァ、と深いため息をついた。

「……俺が好きでやった事だよ」

 或叶さんはそれ以上の事は言わなかった。

 若干、不服そうな表情を浮かべて、またため息をついていた。

 どこかやるせない瞳で私を見つめたあと、キスマークの痕跡を指でスッと撫でてきた。

 その感触に、ドキンと心臓が跳ねる。

「良かった。もう消えて見えなくなってるね」

 穏やかに目を細めた彼に、唇を寄せられてキスをされる。彼とまたキスができる喜びに、私は打ち震えた。

 翌週になり、和希が無事に結婚式を挙げたと風の噂で聞いた。

 どうやら新郎は、口元を紫色に腫らした顔で出席したらしい。

 ーーもしかして。

 何となく予想が立ち、或叶さんにそれとなく話題を振ると、彼はシレッとした顔で言った。

「式の前日に、殴らせて貰う約束をしてたから」

 ーーやっぱり。
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