一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~


これは決して女性らしさをアピールする演技ではない。飲みなれないワインのせいだろう。日本酒か焼酎が常の実花子の体には刺激が強かったか。


「ありがとうございます」


お礼を言って顔を上げると、思いのほか近くに拓海の顔があった。

合った視線をすぐさま逸らし、体勢を整えようと体に力を入れると、拓海が実花子を引き寄せた。ストンと収まった腕の中で、どうしようかと鈍い反応で思考が巡る。

頭の中がぼんやりするのはワインのせい。腕の中から見えた夜景が、空気のゆらめきでゆらゆら揺れている。ワインだけなく、ロマンチックなシチュエーションにまで酔いそうだ。

しばらく抱きしめていた拓海がそっと実花子を引き離す。
間近で実花子を見つめるふたつの瞳。それに捕らわれたら逃げるのは至難の業だと、知り合ったときから感じていた。そして現に、今の実花子がそうだ。

徐々に近づく拓海の唇。触れるか触れないか、数ミリ手前で止めるのは実花子が逃げるかどうかをたしかめるためか。

今までに拓海にされた二度のキスの経験から、このままだと唇が重なるのは必至。もしもここで実花子が顔を背けたら、拓海はあっさりキスをやめるだろうか。
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