一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~
その輪をかきわけて千沙が入ってきた。瞳をくるくるさせて、みんなの顔を一巡する。千沙は今回の一件をまだ知らないようだ。
「ニュース見てないの?」
「なんのニュース? 朝はテレビつけないの」
「椎名社長が事件に巻き込まれたらしいんだ」
「事件? なにそれ」
急にそんなことを言われたら、誰だってポカンとするだろう。千沙は首をかしげた先に実花子を見つけると、どういうこと?と目で聞いた。
首を横に振る実花子に歩み寄り、「実花子ちゃん、ちょっときて」と手を引っ張る。
みんなの視線を背中に受けつつ千沙に手を引かれながら、設置されたばかりの拓海の部屋を横目で見ると、中には真里亜がひとり、心ここにあらずといった様子で立っていた。拓海の姿がそこにないことが、朝のニュースを決定づけているようだった。
誰もいない通路までくると、千沙はくるりと振り返った。
「ね、椎名社長が事件に巻き込まれたってどういうこと?」
「よくわからないの。私も今朝のニュースで見ただけで。昨夜遅く、通り魔に襲われたって……」
「それで? 具合は?」
千沙に聞かれた途端、涙が溢れてきた。