一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~
そして、茫然とする実花子を尻目に会計を済ませ、拓海はそれ以上なにも言わずに店から出ていった。
そのドアを呆然と見つめる。闇夜の海に突然放り出されたような感覚だった。
「……龍二さん……私、振られちゃったみたいです」
まだ信じられなかった。信じたくなかった。
ついこの前プロポーズされたはずなのに、同じ場所で今度は別れを……。
「拓海のやつ、今日は入ってきた時からずっと様子がおかしかったな。ちょっと疲れてるだけだと思うよ。またすぐケロっとするって」
面と向かって嫌いだと言われたのははじめてだった。大好きな人の言葉が、こんなにも堪えるものだと知ったのもはじめてだった。
「なにかつまむものでも作ろうか?」
「……いえ、帰ります」
龍二に軽く頭を下げ、実花子は店を出た。
さっきより幾分か小降りになった雨は、それでもまだ空から細い矢のように降り注いでいた。その中を歩きだす。