一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~
幸せな未来は三人で
仕事を終えてビルを出る。
午後五時半。ビルの隙間から見えるのは、まだまだ明るい空の色。秋の気配を時々感じるものの、まだ生ぬるい空気が実花子の体を包み込む。
冷房で冷え切った体にそのあたたかさが心地良いと感じたのは、ほんの一瞬だった。すぐに不快感に変わっていく。
会社を出てすぐある交差点で信号待ちをしているときのことだった。実花子は、うしろから抱き込まれるようにして突然腕を回された。
驚きすぎて悲鳴も飲み込み、胸もとにある相手の左手を自分の左手で握る。そのまま体を右にずらし、右ひじで相手のみぞおちに一発。確保していた左手を右手に持ち替えて、相手の脇の下をくぐって体を引き抜く。
「――っく」
相手から漏れる短いうめき声。咄嗟に習った護身術の技が飛び出した。習っておいて良かったと思わずにいられない。
夕方とはいえ、まだ明るい。歩道を歩いている人も大勢いる。白昼堂々と公衆の面前で痴漢を働くとは、なんという暴挙だろう。
ところが、改めて相手を見た実花子は目を剥いた。
「拓海さん!?」