一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~
『実花子? 電話をくれるなんてうれしいよ』
数コールのあと出た拓海は、予想通り調子のいいセリフだった。
うれしいというのは、実花子を好きだからうれしいのではなくて〝カモ〟が早速掛かったからにほかならない。
「会ってお話ししたいのですが」
『キミからのお誘いならもちろん。今どこ?』
「よく来る焼鳥屋です」
『それじゃ、その店を出て左に三百メートルくらい歩いたら『セレンディピティ』っていうバーがあるから、そこで待ってて。……そうだな、十五分もあれば行けると思う』
切れたスマートフォンをバッグに投げ入れ、言われたとおりに足を進める。
この怒りは、ちょっとやそっとでは収まらない。嫉妬しないだろうという理由だけで自分を選んだと言われて、怒るなというほうが無理だ。
つまり底辺の女である実花子は、相手の男性に嫉妬感情を抱く立場じゃないと言いたいらしい。身の程をわきまえろと。
今度こそは、絶対にはっきりきっぱり断るんだから。
そう心に誓いながらセレンディピティの扉を開いた。