一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~
その店は、カウンター席が八席あるだけのこぢんまりとしたバーだった。ダークブラウンを基調とした薄暗い店内にモダンなジャズが流れている。お客は誰もいなかった。
マスターらしき三十代くらいの渋めの男性がひとり、実花子に気づいて「いらっしゃいませ」と、これまた想像どおりの渋い声で挨拶をした。ほかに店員はいないようだ。
「お好きなお席へどうぞ」
言われて一番奥の席へ腰を落ち着ける。
「なににいたしましょうか」
こういう店ははじめてのため、なにを注文したらいいのかわからない。さっとテーブルを見たがメニュー表らしきものもない。馴染みのお客しか来なくて、そういうものは必要ないということか。
「……あの、日本酒なんて置いてないですよね?」
「申し訳ございませんが……」
マスターが丁寧に頭を下げる。
「ですよね」