一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~
拓海は運転手にしばらくここで待つように告げると、なに食わぬ顔をして歩きだした。
「ちゃんと捕まって。落ちたら尾てい骨をきっと骨折するよ」
それは嫌だし困る。尾てい骨を強打したときの痛みは、誰でも経験があるはずだ。あそこの骨折は、考えただけでも恐ろしい。
自分の胸の上で拳を握りしめ、固まっていた腕を恐る恐る拓海の肩へ回す。
すると拓海が柔らかく微笑んだ。仕方ない女だと言っているような、子どもをあやしているような、そんな笑顔になぜかドキっとする。それもこれも、その王子様フェイスのせいだ。
そのうえ華奢に見える体が意外とガッチリしていると気づき、心臓がざわつく。本当に勘弁してほしい。
「部屋はどこ?」
「え? ……あ、三〇七号室です」
自分がどこにいるのかすら忘れる始末。慌ててボソッと答えた。
エレベーターに乗ると、両手を使えない拓海に代わって、実花子がパネルをタッチする。ドアが閉まって狭い空間に閉じ込められると、彼との感覚的な距離が近づいたようで息が詰まりそうになる。