予備校前で会いましょう

１日経ったら戻ってくるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に怒りをひと晩やり過ごし、翌日、折りたたみ傘を手に予備校へ向かった。
到着するなり傘立てに向かってダッシュする。

――あった。

ビニール傘やこうもり傘に混じって、浅葱色の傘がちゃんとささっているではないか。
ほとんど泣きそうになりながら、わたしは愛しい傘の柄を持ち上げた。
そして、目を疑った。
"千種公仁"
白い柄に、誰かの名前がマジックペンで黒々と記されていた。

「……は？」
思わず、ひとり声を発した。
予備校生たちが傘立てに傘を突きさしては、佇《たたず》むわたしを邪魔そうに避けて校舎に入ってゆく。