瑠璃色の世界で、君に終わらない恋をした。
翌朝。
普段より少し早く起きた私は髪を念入りにブローし、トレードマークの跳ね上げアイラインをいつもより控えめに引く事で"親しみやすい私"を演出した。
それは今日の放課後対面を果たす秀くんとその友達への私なりの配慮であり、たっぷりめに塗ったマスカラは、ちょっとした自己顕示欲の現れだ。

教室に入ると、那月はそれを待ちかねていたかのように私の元へと駆け寄ってきた。
まだしゃんとしない身体で、いつもの如く勢いよく抱きついてきた彼女を受け止める。
ふんわりとした女の子らしい香りがいつものニ割増の存在感を放っていた事に、私は少々面食らった。

「おはよー!今日の柚歌なんか可愛い!」

「おはよ。那月はいつでも可愛いよ♪」

それはお世辞なんかじゃなく、偽りのない本心だ。那月はいつでもポジティブで素直で、ニコニコしていて本当に可愛い。
男子生徒達からの人気は言うまでもなく、これではさぞかし心配が多いだろうと、まだ見ぬ秀くんの心中を察する。

「今日無理矢理誘っちゃってごめんね。でも秀くんの友達、すっごく良い人だから柚歌も絶対ぜーったい気にいると思う!」

自信たっぷりに言う那月を見ていたら、男の子とカラオケに行くのが初めてだという事や、そんなつまらぬ心配に気を取られ昨夜ほとんど勉強に身が入らなかった事などは、とても言い出せそうになかった。

ひとりソワソワしている自分がなんだか無性に恥ずかしくなった私はお喋りを切り上げ、席について数学の教科書を開いた。
ふせんで印してあったページに目を落としてはみたものの、集中力を欠いた頭に羅列された数字や記号が入ってくるはずもなく、案の定その後のテストの出来は散々たるものだった。



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