君はロックなんか聴かない
会場に戻る。防音の扉を開けるとそこは爆音の世界。知らないバンドだ。聴いたことの無い音楽、オリジナルだろうか、上手いのではないだろうか、うん、分からない。緊張も解けて力も抜けた。尖り切ってたナイフももう振り下ろした。客席は気が楽だ。しかし少し客が増えている気がする。皆プラチナ目当てだろうか、だとしたらすごい人気だ。YouTubeの再生回数が1000万を超えたらし。少し嫉妬心はあるが素直に凄い事だと思う。私も待っているし早く生演奏を聴きたいものだ。行き違いになったのかメンバーの姿はもうない。リハにいったのだろう。1年生でトリなんて羨ましいが正直楽しみだ。事実今の私達の実力ではそんな大仕事は出来ないのは解っている。

「ありがとう、次の曲は僕たちの新曲です。聴いてください、悲しみと共に」

歓声と熱狂。腕を大きく振り上げるオーディエンス。私たちの時はどんな表情をしていたのだろう、それを確認する余裕はまるでなかった。数をこなせば楽しめるようになるのだろうか、私にはまだ解らなかった。メンバーのみんなもそれぞれステージを見上げていた。みんな同じ気持ちなのだろうか私たちはその初めて見るバンドを力無い眼で見つめていた。
「ありがとうございました、この後も楽しんでってください」
演奏を終えて。熱狂と静寂。まだ彼らが控えていた。
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