君はロックなんか聴かない
「アイナはきっと焦ってるんだと思うよ、橋本さんも気を付けた方がいいよ、誰もが陥る可能性はあって、音楽に夢中になり過ぎると周りが見えなくなる、一人では音楽は出来ないのにね」
「え、うん、私は大丈夫だよ」
私は大丈夫だと思っていた。久間君はそう言って自分の席に戻って行った。
「何の話?」
えみちゃんが話かけてくる、制服から透ける黄色いTシャツはきっと校則違反だろう。
「文化祭の話」
「文化祭?」
「バンドの演奏あるんだって」
「え、いいね、出ようよ」
「うん、出よう、青田さんにも言わないと」
「そうだね、ひとみちゃんにもね」
「うん」
「またひとつ目標ができたね」
「うん、そうだね」
「どうしたの?でたくない?元気ないね?」
「え、そう?そんな事ないよ、ちょっと寝不足なだけだよ」
「そっか、何か悩みごとでもあったら何でも言ってね」
「うん、ありがとう」
えみちゃんは席に戻った。私は何に悩んでいるのだろう、何か引っかかるものはあるがそれがなんだか自分でも分からなかった。何か正体のわからない黒い大きな化け物のに怯えているようだった。
青田さんと目が合う。私は小さく手を振った。青田さんも小さく手を振り返した。
チャイムが鳴る。授業が始まる。
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