君はロックなんか聴かない
✳︎
「みんなで海に行こう」
私がみんなを誘って海に行くことにした。久間くんと花形くん、えみちゃんと白石さん、9月も末、海水浴がしたい訳じゃない。ただ海を見たかったのだ。

電車で6駅。今日は海を見るだけじゃない。花形くんに言いたいことがある。過保護だろうか過干渉だろうか、それでもどうしても伝えたい。同じ時代に同じ学校に現れた天才に腐って欲しくないのだ。例えライバルを増やすことになってもそれでも彼の行った事は偉大だと伝えたい。
電車の中目を合わすが直ぐにそらされてしまう。私の気持ちに気づいているのだろうか、おそらくそうだろう。文化祭の一件で気づいているのだろう久間くんが言いたいことを私に託したことを、久間くんと白石さんは楽しそうに話している。もう付き合ったりしているのだろうか、でもお似合いだと思う。
「もうつくね」えみちゃんが話しかけてくる。
「そうだね」
「ひめちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「青田さん、残念だったね」
「まあ、バイトでしょ、しょうがないよ」
「ひめちゃん、青田さんのこと嫌い?」
「え?なんで好きだよ?」
「そう、ならいいんだけど」
一瞬沈黙が流れる。電車の音が響く。
「私の事は?」
「え、好きだよ」

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