君はロックなんか聴かない
久間くんも曲を入れた。題名を見ても知らない曲だった。

久間くんは大きく息を吸った。曲が始まる。

その瞬間時が止まった。私は全ての時が止まったように感じたのだった。

甘くても強さなある歌声。密室のはずが私には強風が吹き荒れた。とてつもない衝撃だ。

「うま」

須藤さんはそれ以上の言葉を発しなかった。それもそのはずで私は一言すら発することが出来なかった。

バンドでなんの楽器をしているのかは聞いていなかったが、この人は必ずボーカリストだ。そうに違いない。

私は高揚感と圧倒的な敗北感を感じていた。
目も潤っていた。

サビに入ると何となく聞いた事があった。
だがそれどころでは無い。私は呼吸も忘れてその歌声を聞き入っていた。

高音も低音も上手い。私が今まで聴いた誰よりも上手かった。

悔しい。ただそれだけだった。

久間くんは歌い終えた。全員が画面を見つめる。

大きくグラフは伸びる。点数は96。

凄い。私の最高記録よりも高い。一発目なのに凄まじい。

久間くんは表情を変えずにスマホを見つめる。

「めちゃくちゃ上手いね」

「ありがとう」

私は次の曲を入れられなかった。

「決まんない?」

「あ、うん」

私はとりあえず曲を入れたがその後は放心状態であまり覚えていない。

私の世界の狭さを感じた。
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