君はロックなんか聴かない
「ありがとございました」

須藤さんが手を叩く。私も遅れて手を叩く。

「上手だね」

「ありがとう」

その後の会話は聞き取れなかった。私はただ呆然と二人が話しているの見ていた。

「弾いてみる?」

「え?」

「ギター、アンプに繋いでみなよ」

「え、うん」

ギターの男子は慣れた手つきでギターとアンプを繋いでくれた

「なんか弾けるの?」

「え、いや全然」

「好きなアーティストは?」

「え、あ、椎名杏とか』

「そっか、いい趣味してるね、知能とか知ってる?」

「うん、弾ける」

ギターの男子が目で合図するとドラムのカウントが始まる、それに合わせて弾き始める。必至についてく。

音を外した。やっぱ下手くそだ、汗が滲む。

するとギターとベースが入る。何かに包まれてるようだ。私の演奏が下手じゃなくなった感じがした。いつも感じてる宇宙とは違う、今日は孤独じゃ無い。世界が明るい。

そこに久間君も入ってくる。スマホで歌詞を見ながらだがやはり上手い。何だろうこの感覚。あくまで私が主役。音を間違っても関係ない。みんなが抱き上げてくれる、転ばないように手を引いてくれる。幸せだ。

これがバンドなのか、ずっとこの中にいたい。

今度の演奏は瞬間で終わってしまった。
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