君はロックなんか聴かない
すごい人数だ。まだ始まっていないのにほぼ満員。学生だろうか同年代が多い。

「すごい人だね」

「うん」私は言葉が出なかった。

久間君がいた。話しかけようと思ったけど誰かと話していた。

「久間君だ」

「うん」久間君と目があった。

「おはよう」

「うん、すごい人だね」

「うん今日は多い日だね、チケット俺の紹介って行った?」

「ううん言ってないよ」

「あ、そうなん、ごめん言ってなかったね、俺の紹介って言えば安くなるよ、あとで言っとくね」

「うん、分かった」

「今日調子いいから楽しみにしててね」

「うん」

そう言って久間くんはまた行ってしまった。いそがしそうだ。

白石さんもいる後ろ姿だけ確認できた。あとで声かけよう。

大町君たちもいた。目があったが大町君も誰かと話していた。頭を下げたので私も首で挨拶を返す。
みんな忙しそうだ。

証明が暗くなる。

始まるのだろうか、女子高生が楽器を持って出てくる。西高の制服だ。

私は唾を飲む。

「こんにちはエイリアンです。今日は盛り上がっていきましょう」

ドラムがカウントをとる。ギターが入る。

知ってる曲のイントロだ。ヒーローのコピーか女性が歌うのかすごいな。

私は気がつくと見入っていた。ボーカルも上手いな、いいな、憧れる、私も早くあのステージに立ちたい。

次のバンドも次のバンドもカッコ良かった。

気がつくと久間君の姿は客席には無かった。そろそろ出番だろうか楽しみだ。

次のバンドも次のバンドもかっこいい。時間が過ぎるのは一瞬だった。

私は聴き入り魅入りただそれだけだった。「はぁ」ため息がでる。

「すごいね」
  
「うん」私は嫉妬と高揚感でえみちゃんに返す言葉が無かった。

それは突然現れた。空気が変わった。人も開始時間より増えている気がする。

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