君はロックなんか聴かない
あっという間のパフォーマンスだった。圧巻のパフォーマンスだった。

私は忘れていた呼吸を始める。終わったのに鳥肌が止むことはない。心臓の鼓動も早い。興奮冷め止まない。

「凄かったね」

「うん、凄かた」声が震える。

呼吸がうまく出来ない。

次のバンドのばんだ。正直かわいそうだ。この空気感でやるのはやりづらいだろう、客も帰り始めている。

「こんにちはロキです」

女性だ。男女混合バンドだ。私は目を疑い二度見した。アイナだ。
あいつも出てたんだ。ベースを握り挨拶をする。相変わらず眼光は鋭く目つきは悪い。

ドラムカウントで曲が始まる。

嘘でしょ。なんだこれは上手い。悪くない。

客席もざわつく。オリジナルだろうか聞いたことのない曲だ。なんだこれはベースがとてつもない存在感を放っている。上手い間違いなく上手い。私は一瞬で心臓を掴まれた。私だけじゃないはずだ、きっとそこにいた彼女達を舐めた人たちはみな掴まれてしまった。

なんと表現したらいいだろう彼女の音楽には久間君達にある包容力はない。まるで嵐の中でアイナが跳ね馬を乗りこなしている。あらあらしくロックで破壊力がある。なんて曲だ正直もう虜になってしまった。

悔しい。かっこいい。私は涙が出ていた。

「ひめちゃん大丈夫?」

「ううん、帰る」

私はスタジオを飛び出した。

「どうしたのひめちゃん」

「うんなんか泣けてきて」

「私にも私たちにも出来るかな?」

「やりたい、絶対やりたいあ!」

「そうだね、来週から頑張ろう」

「久間君とかに挨拶とかはいいの?」

「うん、止まってられない、火をつけられたのだから、今すぐ練習したい気分」

「そっかじゃあ帰ろっか」

「うん」

えみちゃんがティッシュをくれた。

「ふきな」

「ありがとう」

「帰ろう」「うん帰ろう」


私たちは複雑な感情を背負いながら帰路に立った。世界は広かった。
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