君はロックなんか聴かない
「よかったんじゃない?」えみちゃんが口を開く。

「う、うん」私は言葉が出てこなっかた。

「みんな上手くて、びっくりしたよ」

「もう一回やってみよう」

「う、うん」

またドラムのカウントで曲が始まる。

悪く無い。悪く無い。何が足りないのだろう、解らない。私の音楽、私の世界、私たちの世界、私たちの音楽、これからどうなって行くのだろうか解らない。

爆音がスタジオ内を駆け巡る。ドラムが体に響いていく。ベースもリズムを刻む。ギターもしっかりついて来ている。私もしっかり合わせていく。

悪く無い。悪く無い。

額に汗が滲む。私のギターものってくる。楽しい。間違いない。楽しい。

課題なんて関係ない。不安なんて関係ない。今はこの音楽に向き合ってしっかり楽しんでいていい筈。私の声量も上がる。

音楽ってやはり読んで字のごとく楽しい。バンドって楽しい。ギターって楽しい。歌って楽しい。

ただそれだけ、ただそれだけだった。

世界はきっと今ここを中心に回ってる。

そんな錯覚に襲われる。アンプの世界。素晴らしい。ずっと浸っていられる。幸せだ。

無情にもそれは終わりを告げられる。

また無言の時間が流れる。

「休憩にしようか」

「う、うん」


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